うちの姉が以前、すごいアンティーク着物に凝ってた。 
それこそ、箪笥と行李を新しく買うぐらいに。 
確かに見ていて綺麗だなーとは思うが、当時リア厨だった俺には、何でそこまで買い漁るのかがさっぱりだった。 

そんな一昨年のゴールデンウィーク頃、姉が京都にデートに行った帰りに、
昭和初期くらいの訪問着(と言ってた)を持って帰ってきた。 

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鶯色で梅とか松とか、おめでたそうな柄だった。 
姉は「彼氏が選んでくれた~vv」と、姿見の前で羽織って大騒ぎ。 
母と祖母も二人で「綺麗やわ~」とか、「ええ物やわ~」と大騒ぎ。 
俺はというと、和室で親父とごろ寝しながら騒ぎを聞いていたんだが、
いきなり姉母祖母が押し寄せてきて、親父ともども追い出された。 
どうやら衣文掛け?に飾るらしい。 
俺はふてくされて自室で寝た。 





 目が覚めると、既に午後10時くらいだった。 
「うわー晩飯食い損ねたー」とドアを開けると、なぜか家中シーンとしている。 
階段を下りると、まず食卓に母と祖母がいた。 
緊張した顔で、和室の方を見ている二人。
俺を見ると、厳しい顔で手招きする祖母。なぜか手には肉切包丁。
さらに、母の手にはすりこぎ。

ええええ!?と思った瞬間、和室の方から、
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!! 
と、摩擦音のような音がした。
さらに緊張する祖母と母。 
「手伝ってきてくれ、おまんは力あるから!!うちは○○(←聞き取れなかった)持ってくる!!」 
内心チビリそうになりながら、そっと戸に手をかける俺に、祖母が握らせたのは『出刃包丁』。
覚悟を決めて一気に引き戸を開けると、目の前には父と祖父が身構えて立っていた。 
部屋の真ん中には、手と足の生えた、緑色の布の塊。
それが部屋の真ん中で、ぐるぐる回っている。
多分、あれは姉だ。
しかし、見えている手がおかしい。二対ある。 
手が震えて、何も出来なさそうな俺をみて、祖父が父に言った。 
「ええか、先におまんが押さえ。俺が着物剥ぐ」 
「ん。いくで」 
回っているものに飛び掛る父。しかし相当強いらしく、引きずられてしまう。 
出てる手に引っ掻かれまくる父を見て、はっとわれに返って俺も飛び掛り、何とか動きを鈍らせる。 
祖父がそのスキに、そいつの着物を引っぺがした。 


やはり中味は姉だった。 
しかし、着物をはがしても治まる様子が見えず、父に噛み付き、犬のように首を打ち振る姉。
父の血が当たりに飛び散る。 
もう手が痺れてきて、「あ、だめだ」と思った瞬間、
ガラガラガラッと大きな音を立てて戸を開け、祖母が突進! 
薄茶色い液体を着物にぶっ掛けた。 
やっと父から口を離した姉を、母が布団でくるみ、上から縄で縛り、納戸の中に押し込んで鍵をかけた。 

その翌日、庭で着物を燃やした。
満身創痍の父と俺と祖父の三人は、その灰をたっぷりかけられた。 
姉は克明に出来事を覚えているらしいが、どうしても話してくれなかった。 
母と祖母の持ち出した液体も、灰をかけられたことも、あの着物のことも、未だに俺には分からないままだ。 

ちなみに、前突っ込まれなかったから書かなかったが、
『おまん』って言うのは、自分の地方での『お前』って意味なww 
進学してからぽろっと口に出して、ドン引きされてしまった。 

あと、後日談にも満たないことだけど書いておく。 
着物ってのは、『同じもの』は世界に一枚、または極少数しか存在しないと思ってる奴が多い。 
実際、アンティークなどの昔の着物は、そういうことが多い。 
戦争による焼失や経年劣化、使用したための痛みなどで、年月とともに『同じ』着物は減っていく。 
だが、1や0に必ずなるとは限らない。
特に人気だった柄の着物などは、田舎では戦火を逃れて、いろんな地方に残っていたりする。 

俺の進学したのは、実家から遠く離れた地方都市だった。 
大学ではクラブやサークルの勧誘が連日続き、部活の公開見学会なども行われていた。 
俺はそこで再会してしまった。
こげ茶色の髪の毛をアップにして、慣れた手つきで茶をたてていた若い女性の着物。 
あれは間違いなく、俺の祖母が燃やしたものと同じものだった。 
あの化け物は『あの』着物に憑いていただろうから、大丈夫だとは思うのだけど、未だに不安は拭い去れない。 





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