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俺が中学の時、『神谷のおばさん』という有名人がいた。 
同級生神谷君の母親なので『神谷のおばさん』な訳だが、
近所は勿論、同じ中学の奴もほとんど神谷のおばさん知ってる位有名人。 
見た目は普通のおばさんなんだけど、とにかく話を聞くのも話すのも上手い人で、
地元じゃ有名なヤンキーすら、「神谷のおばさんに怒られちゃしょうがない」って悪さ止めるくらい。 

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俺達中学生の下らない悩みとか、相談を真剣に聞いてくれたし、
本気で怒ったり励ましたりしてくれる人だったな。 
親とか先生には話せないことを、相談出来る大人って感じ。皆の母ちゃんっていうか。 







で、神谷のおばさんといえば『怖い話』。って思い出す位、怪談物が得意だった。 
内容は多分よくある怪談なんだけど、とにかく話し方が上手いんだよ。 
滅茶苦茶怖くて、女子なんかキャーキャー大騒ぎになるくらい。 
そんな神谷のおばさんに関する話。

俺が中2の秋、クラスに転入生が来たんだよね。秋山君っていったと思う。
田舎だったからあんまり転入生とかなくって、結構注目されてたような気がする。 
背が高くて、顔立ちも整ってて、いかにも女に受けそうな奴だなぁってのが、俺の第一印象だった。 


168 :2/7:2009/08/17(月) 18:38:02 ID:XLD8z8zdO
最初の頃は皆、秋山の周りに行ってあれこれ世話してたんだけど、日が経つにつれ、秋山は皆から避けられていった。
「犬に石ぶつけてた。犬が怪我しても止めないの」 
「猫をおもいっきり蹴って、猫がピクピクして身動きしないのを、踏みつけようとした」 
勿論担任の耳にも入り、注意されたみたいだけど、母親が乗り込んできて、
「学校で悪いことしてないでしょう!勉強だって出来るんです!(実際成績はトップクラスだった)
 犬猫に何したって、成績良ければいいじゃないですか!」
と大騒ぎしたらしい。 
今でいうモンペだったんだな、母親。 
噂では、前の学校でも問題起こして、母親と学校が揉めたらしく、それで両親が離婚。
母親の実家に戻って来たってことだった。 
うちの母親が地元出身で、この秋山母のことも良く知ってたとかで、そんな噂も俺の耳に入ったわけ。 

しかし、うちの担任は熱血漢で、はいそうですかとは引き下がらない。 
「命の大切さ!弱いものを慈しむ心!教育とは勉強だけじゃないんですよ!」と、全面的に争う姿勢。 
日頃担任をうざがってたヤンキー連中すら、「全くだ」と応援してたのがおかしかった(笑) 







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とにかく秋山は怖かった。
ヤンキーとかの不良に感じる怖さじゃなくて、得体が知れない闇みたいで、本気で皆怖がってた。 

ある日、俺が神谷ん家に遊びに行くと、ちょうどおばさんと神谷が買い物に行くところだった。 
近所のスーパーなんだけど、米やら重いもの買うから付き合うんだとのこと。
なら俺も付き合うよと、三人でスーパーに向かう。 

買い物中、秋山が少し離れた所にポツンと立ってるのに気付いた。
秋山の家はここから大分離れてる。ちょっと買い物にしては不自然だった。 
俺は神谷の事を肘で小突いた。神谷もすぐに秋山に気付いたみたいだった。 
「何でこんなとこにあいついんの」
「知らねぇ」
ひそひそやってたら、おばさんが後ろからスッと顔出した。 
「あれ、あんたが言ってた秋山君って子?」と呟く。 
「良く分かったな~」と二人でビックリしてたら、 
「アレは駄目。近寄らないでね。それしか方法が無いわ」 
それだけ言うと、おばさんは買い物に戻っていった。 
今までどんな不良でも決して見捨てなかったおばさんの一言が、えらいショックだった。 
「うちの母ちゃんがあんな事言うなんて」と、神谷もかなり驚いたらしい。 


174 :4/7:2009/08/17(月) 18:42:16 ID:XLD8z8zdO
それからしばらくして、秋山がパッタリ学校に来なくなった。 
でも誰も心配しなかったし、むしろこのまま来ないで欲しいという空気だった。 
何回か母親が学校に乗り込んできて、
「イジメがあったはずだ!だから息子はおかしくなったんだ!」と騒いでいた。
イジメは無かったけど、クラスで孤立していたのは事実だから、何かゴチャゴチャはしたらしい。 

実は俺の家にも、秋山母が来たんだよね(笑)うちの母ちゃんのこと、向こうも知ってたみたいで。 
「あんたの息子が苛めてたんじゃないのか」 
「うちの子が出来がいいから妬んでた」 
「どうせろくでもない息子だろ。お前の息子が狂えば良かった」 
最初は穏便に追い払おうとしたうちの両親も、最後はかなりキレてたな(笑) 
俺は何となく悲しかった。
ああ、このおばさんも狂ってるんだなぁ…って。 

三学期も終わり、春休みのある日、俺は神谷の家に遊びに行った。 
おばさんと三人でお喋りしてるうちに、ふと秋山の話になった。 
実はずっと気になってたんだよね。なんで秋山に近寄らない方が良かったのか。 


176 :5/7:2009/08/17(月) 18:44:05 ID:XLD8z8zdO
秋山は結局学校に戻らなかった。完全におかしくなっちゃって、今でも病院らしい。 
秋山母も、離れた病院に入れられたらしい。秋山祖父母は我関せず。 
「あんなキ○ガイうちの人間じゃないから、死ぬまで入院させておいてくれ」と言ったとか。 

そんな話と、家まで怒鳴り込みかけられた話との後、俺は神谷のおばさんに聞いた。 
「結局秋山はなんだったの?」
おばさんは少し考えた後、「人間ではない」と答えた。

「一目見てわかったよね。もう人間じゃなかった。 
 本当の秋山君は、多分普通の子だったと思うよ。
 小さい頃から少しずつ食べられて、本当の秋山君はもういなくなっちゃってた。 
 秋山君の皮の中に、ドロドロした念が詰まって、人間の形になってるだけ」

俺も神谷も驚愕した!今まで『怪談』は良くしてくれたけど、
こんな霊能力者みたいな事を、おばさんが言ったのは初めてだったのだ。

「な、なんでそんなことになっちゃうの?!怖いよ!」
真剣にビビる俺(笑)神谷も真っ青だった(笑) 

「親の因果が子に報い~ってやつかしらね? 
 あの家のお祖父さん、何人も人死なせてる。 
 直接殺した訳じゃないけど、あのお祖父さんのせいで死んだ人が沢山いる。
 秋山君のお母さんが歪んでるのはそのせい」


177 :6/7:2009/08/17(月) 18:47:31 ID:XLD8z8zdO
「でも、それじゃおさまらなかったから、秋山君までいっちゃったのね。 
 死んだ人の恨みとか呪いが禍々しいモノを呼んで、秋山君は食べられちゃった。可哀想に」
「そんなのないよ!じゃあ秋山悪くないんじゃん」と神谷が言う。
「因果ってそんなもんなのよ。個人じゃなくて『血』に祟るの。親しい人とかね。 
 あんたらも心しておきなさいね。そういうのには、人間の理屈は通用しないのよ」 

神谷のおばさんは、最後こう言った。
「見てなさい、あのお祖父さんだって。
 さ~て、お夕飯の支度しよっと!あ、木村くん(俺)も食べていきなさいね~」
と、おばさんは普通に台所に消えていった… 
俺と神谷はすげぇ落ち込んでた(笑)
だって、自分が悪くないのに、そんな目に合うなんて怖すぎる… 

何となく、この話は誰にもしない方がいい気がして、(神谷のおばさんが変な人扱いされそうで)
俺と神谷だけの秘密みたいな扱いになった。
俺も今や40近くなり、おばさんは鬼籍の人となったから投下した次第。 

その後、秋山の祖父は病気になり、全身が麻痺。寝たきりになった。 
祖母は看病疲れで亡くなり、じいさんは施設に入れられた。 


179 :7/7:2009/08/17(月) 18:49:46 ID:XLD8z8zdO
秋山祖父は昔は強欲な金貸しやってて、相当悪どかった、と後から聞いた。 
じいさんが入れられた施設に、うちの母親の同級生が勤めていて、
その人情報だと、全身硬直していて座ることも出来ない。それなのに痛みが止まらない。
いくら処置しても床擦れが治らない。床擦れから感染して、色んな病気になる。それなのに死なない。 
「あれは生地獄だよ」と。
結局じいさんはつい最近まで、つまり20年近くそのままだった。 
秋山母と秋山に関してはよく知らない。生きているのか死んでいるのかさえ。 

結局全て偶然なのかもしれない。
秋山祖父はただ性質の悪い病気になっただけで、秋山母と秋山は精神病を患っただけ。 
だって、世の中には何も悪い事してなくても、病気や事故で不幸な目にあった人はいっぱいいるし。 
それでも俺は、いまだに墓参りや法事には真剣に参加してる。
ご先祖様ありがとう。皆のおかげで俺は幸せに暮らしてます。と。




 
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