そこには誰もいない。逃げる時間も場所も絶対にないはずなのに。
そういえばと俺も思い出した。このマンションに入ってすぐに夜中に女が泣いている
声をしばしば聞いていた。当時は何事かと思ったがこの人が泣いていたのか~と思った。
ここまではわりとありがちな展開だが
首をかしげながら玄関の扉を閉めた瞬間
背後でキッチンと部屋を仕切っている
ガラス扉が木枠から外れんばかりに
ガタガタ激しく揺れ始めた。
地震かと身構えたが揺れているのは
そのガラス扉だけ。
この理解不能の事態に私のカラーランプが
激しく点滅を始めた。
何かが部屋に入ってきた。
体中の全神経をその得体の知れない何かに向けながら
目には見えないそれを必死に見ようと私は目を大きく見開いた。
視線は部屋の宙をさ迷いさらに半端に開いたカーテンの向こうを捉えた。
ガラスには煌々と明かりのついた部屋の中がくっきりと映っていて
私は自分の姿をそこにみとめた。
ガラスに映る怯えた表情の私の後ろを
スケートを滑るみたいにサーっと影が通ったのが見えて
私の血の気もサーっとひいた。
話はこれだけなんだけど今これ書いていて
本気で後悔している。
鳥肌が半端じゃない。
部屋は寒いのに変な汗が出てくる。
今夜はあの日と同じ気配が部屋に充満している気がしてならない。
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