東海地方の某県庁所在地に転勤になった時、
独り者だし出張も多いし、殆ど家で飯も食わないしと思って
引越し先の住まいにはあまり頓着なかった。
不動産屋に案内されたそこは近所に適当に飯が食える店もあったし
車通勤なので駐車場も空いてたしってんで決めた。
わりと交通量のある道路に面したマンションなので多少騒音があったものの
これまでにもっとうるさい所でも全然平気だったから気にしてなかったんだが
そこに引っ越してから何故か寝つきが悪く、妙な寝汗をかくことがよくあった。






まぁ新しい職場で緊張してるせいだろう、そのうち慣れるだろうと大して深く考えていなかった。
実際仕事が忙しくなって予想通り寝に帰るだけみたいな生活になってからは
徐々にそんなこともなくなっていた。
ところがある日、上司に付き合って梯子して飲んで日付が変わってから帰ってきた時に
エレベーターを待ってたら急に臭いに気が付いた。
いや、以前から気付いてはいたが気にならなかった臭いが急に気になり始めたと言うか。
そのマンション、1階だけがツンとした変な臭いがするんだ。
何故かその日を境にその臭いが鼻の奥に染み付いたように消えなくなった。
気になり始めると気持ち悪くて気持ち悪くて、
それから再びあのねっとりした寝汗で眠れない日々が続いた。


それでもう我慢できなくなって元々荷物も少ないしってんで引っ越すことにした。
それから一年ぐらい経って再び辞令が出てその送別会の時に
二次会で行った店でなんとなくその話になった時、
店の女の子のひとりがそのマンションの近所に住んでたんだが
その話を聞いて「それってEってマンションじゃない?」って聞いてきた。ビンゴ。
彼女から聞いた話にゾッとした。
住んでるときは気付かなかったけど、そのマンション、1階だけは誰も入居者がいないらしい。
と言うのも、1階のある部屋で孤独死があり、腐乱したまま長らく放置されていたため
あの臭いは消毒臭なのだそうだ。
その話を聞いた途端、せっかく忘れていた臭いが鼻の奥に再現されて便所に走って行ってしこたま吐いた。 
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