こんな話もある。
場所はふせる;時代は、1980年代前半

オレたち三人は山頂に到達するまでに野営する
つもりで歩いていた。夕方近くに、山道をおりて
くる二人連れとあった。小学生低学年くらいの
女の子と母親と思われる女性だった。軽い
山歩きの格好をしていた。挨拶をしてちょっと
話をした。






「お二人で登山ですか?」オレ 
「そうなんです、この子に山を見せたくて」女性 
「これからの下山だと暗くなってしまうのでは?」オレ 
「だいじょうぶです。麓まで祖母が迎えにきて 
くれますから」女性 
その女性は、少女に、お兄さんたちにおあげなさい、 
とうながした。少女は、自分の小さなリュックから 
ビニール袋に入って饅頭を三つ取り出して、袋を 
つまんでわたしてきた。オレたち三人は袋を持って 
受け取った。 
「それでは」と女性は言って、少女を連れて道を 
おりていった。「これからだと、どうやっても暗く 
なるだろう」と利発な友人と話していたら、後ろで、 
拳銃マニアの友人が鋭く低い声で言った。 
「おい、この饅頭を食べるな!」 
利発な友人とオレは、えっ?と思って饅頭を掴ん 
だら、熱っつ熱。蒸したばっかりのような熱さ。 
山からおりてきた人の背負っていたリュックから 
ひょいと出した饅頭がどうしてこんなに熱いんだ!? 
そういえばおかしい。これから下っても絶対に 
暗くなる。「祖母」ってだれだ?あのお母さんの 
祖母という意味か?それとも女の子の祖母か? 
あの人達は、今日、朝から登っておりてきたのか? 
山頂まで行ったのか?あれで? 
オレたちは饅頭を穴を掘って埋めて、足早にそこを 
立ち去った。 
持ち帰って調べるということはしたくなかった。 
彼女たちが戻ってくるのではないか?と考えると 
怖かった。


 
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