友達から聞いた話
4年か5年前のちょうど今くらいの時期の夕方、友人の友人(以降A氏とする)による体験談です。
毎日仕事上がりにバス釣りに行くA氏はその日もまたいつも行くポイントであるダム湖でルアーをキャストしていたそうです。
一匹も釣りあげることもなく、『今日もボーズかな』と思い手を休めていると、ふと気付くと傍らに小学生と思われる男の子がこちらの釣りの様子をうかがっていたそうです。
白帽子にランドセル、縞々の服に黄色い名札。
これから夏休みを迎える小学生が道草を食っているんだなと思ったA氏は男の子に言ったそうです。
「もう、遅いから早く帰らないとご両親が心配するよ?」
すると男の子はA氏の言葉を無視するかのように言ったそうです。
「ここで何が釣れるの?」
面食らったA氏は思わず答えた。
「…バスだよ。」
それに対し矢継ぎ早に質問する男の子。
「それ以外は?」
「…時々鯉が釣れるかな?」
「魚じゃないよ!他には?」
「……。」
しまいには声を荒げる男の子。魚にも興味を持たないこの男の子は
いったい何が釣れることを期待しているのか?
そもそも何しにここに来ているのか?A氏はこの男の子を失礼で不気味な子だなと思い、
無視することに決めて再びルアーをキャストしはじめたそうです。
その間、相変わらずにA氏の釣りの様子をうかがう男の子。
全くつれる気配のないA氏は『今日はもうやめるか…』と思い竿をたたもうとすると、男の子がストラクチャーの一点を指差したそうです。
『あそこを狙えってことかな?』と思い、しょうがないという気分でルアーをキャストしたA氏。
しばらくリトリーブしているといきなり何かがかかった感触。
『きた!』と思ったA氏はラインを巻き上げ始め、男の子も喜色満面の笑みで「釣れた!釣れた!」と喜んでいたそうです。
しかし、A氏は魚じゃない感触に気付きがっかり。一方で喜びはしゃぐ男の子。
どうやらかかったのは大きなゴミ。それも相当大きい。
A氏は男の子に言ったそうです。
「魚じゃなくてゴミだよ。残念だったね。」
すると男の子うれしそうにこう言ったようです。
「ゴミじゃないよ。それより早く上げてよ。」
仕方ないと思いリールを巻き続けるA氏。「早く早く!」と催促する男の子。
『それにしてもでかいゴミだな』と思う傍ら、ふと男の子の言葉を思い出したそうです。
『そもそもこの子は魚に興味なかったんじゃなかったっけ…』
そっと男の子のほうに目を移して思わずギョッとしたA氏。
男の子はこちらを凝視し、その両目は喜びを通り越し喜悦と恍惚に満ちた、とても小学生とは思えないような眼をしていたそうです。
大きなゴミが近付くにつれて
「 早くっ!! 早くっ!! 」
その声はもはや叫び声に近かったそうです。
自分は今何を巻き上げているのかだんだん恐ろしくなってきたが、魅入られたかのようにA氏は巻き上げる手を休めることが出来なかったそうです。
巻き上げている『それ』はもう目と鼻の先、男の子の声はほとんど悲鳴を上げている状態。
『もうだめだ』そう思ったA氏でしたが、目前まで近づいていた『それ』は針掛りが甘かったらしく、男の子が「あっ!!」と声をあげると同時に深いダム湖の底に沈んでいったそうです。
男の子の声がきっかけとなったのか、我にかえったA氏。
さきほどの男の子は消えてしまい、いつの間にか日が暮れて2、3メートル先も見えないくらいの暗闇となっていたそうです。そして、思い出したかのように恐怖が這いあがってきたA氏はさっさとルアーを回収し、早々に家路について、その日の出来事を忘れるためすぐに就寝したそうです。
翌日、自分のタックルを手入れするのを忘れていたA氏は昨日使っていたルアーにゴミが絡まっていることに気が付いたそうです。
昨日はこんなことにも気付かないくらい取り乱していたのかと自嘲しながら、絡まるものを見て一気に吐き気が襲ったそうです。
そこには黄色い名前の部分がふやけた名札と、縞々のぼろきれがあったそうです…。
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