小学校3~4年頃だったと思う。
その頃は、両親共に実家から数キロ離れた工場で働いてたから、
俺も小学校終わってから、工場近くでひとり遊んで待つという習慣がついてた。
工場の近くには、薄暗い神社や暗く湿ったトンネル、広いゴミ捨て場があったりして、
いつも一人であちこち探検して、夕方に工場に戻って、両親と一緒に家に帰る生活だったんだ。


 

ある時、工場近くで、知らない同い歳くらいの男の子3人に、かくれんぼに誘われた。
俺は誘われたことが嬉しくて喜んで参加して、逃げまくって必死に隠れた。
知らないアパートの物置の裏に隠れてたら、さっきの男の子が一人合流してきた。
クスクス笑い合ってたら、「この家面白いんだぜ」と言いだし、外にある階段を上り始めた。

男の子について行くと、2階に上がり切らずに階段途中で壁面を指さす。
アパート一階部分の天井付近にある小窓を見ろ、ということらしい。


「??」
俺は身を乗り出してその小窓を覗いた。
部屋の中には、ステンレスの風呂釜がある。風呂?
壁はコンクリのようだったと思う。風呂釜以外何も無い。
「何?」
不思議なのはそこでは無かった。
その部屋にはドアが無いのだ。
「・・変なへやだね」
振り返ると、男の子は1階に走っていってしまった。
そこでかくれんぼは終わった。

工場へ帰り、家に戻る最中、その家のことを親に話してみた。
「勝手に人様の家を覗くような真似するんじゃない」
親父に一喝されて、その話も終わった。


それでも不思議な家という印象は変わらず、次の日もアパートの階段を上り、その風呂を覗いた。
やはりドアはどこにも無い。水気も無い。人気も無い。
異質なものを感じて工場へ帰る。

親父にもう一度話してみた。
たまたま機嫌良かった親父は、「しつこいなお前は」と言いながら、俺の案内するアパートへついてきてくれた。

「ほら!ここ」
俺が指さした小窓を親父が見る。
「?・・・なんだ?」
親父の顔色がさっと変わったのをハッキリと憶えている。
突然、アパート全体を見渡し、眉をしかめた。
「おい・・これは、普通の家じゃないぞ」
そう言って、俺の手を引いて慌てて階段を下りる。訳もわからず一緒に走る俺。

記憶はここまで。

GW帰省して、昨日このことを思い出し、ふと親父に聞いてみたが、
「憶えてないが・・そういう見ちゃいかん世界はある」などと言っていた。


 
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